能面解説

名称        〔 使用曲目 〕

  おきな        〔 三番叟  翁 〕

白色尉と呼ばれ、「切顎」(きりあご)と言って顎が口の腺で切られ紐で結ばれている。 ボウ々の眉が特色。天下泰平、国土安穏の祝福の祈祷を舞う、  健康な老人の笑みをたたえている。
黒色尉  こくしきじょう        〔 三番叟  翁 〕

翁と同じ「切顎」であるが、眉と鼻下の髭は植毛されている。 五穀豊穣を舞う農民の面。 狂言の三番叟にも用いられ、ほほえましい福寿円満の笑みを浮かべている。
父尉  ちちのじょう        〔 翁 〕

目の形が個性的で父親の威厳に満ちている。延命冠者と親子の関係。
延命冠者  えんめいかじゃ        〔 鷺    延命冠者 〕

他の翁面と異なり切り顎でない。 「父尉」の面と親子の関係。  明るく純朴な若い男の面 三番叟等めでたい能に使用される。
小牛尉  こうしじょう        〔 高砂  松風 〕

創作者の小牛清光から由来した名稱。 品位の高い翁面で、老相にふさわしく白髪を頭上でたばね頬肉が薄く額に 三本の皺を刻み下唇の下と顎に植毛されている。
稲尉  いなじょう        

稲荷大明神の化身である老人に使うところからこの名で呼ばれる。 尉面では唯一髪を植え付けず筆で描いている。 髪無尉ともいう。
石王尉  せきおうじょう        〔 白楽天 〕

創作者 石王兵衛正友から取られた名。 老木の精。  眼窩を極端に窪ませ目は茗荷形で下むきに瞳を彫り他の尉面とはかなり雰囲気を異にする。
皺尉  しわじょう        〔 老松 西行桜 遊行柳 〕

頬骨に見る直角の皺が特異、松 桜 柳、など樹木の精が舞う曲に用いられる。
舞尉  まいじょう        〔 老松  雨月 〕

舞を舞う老爺に用いる。
朝倉尉  あさくら        〔 八島  善知鳥 〕

名稱は作者 出目栄光が越前の朝倉家に献上したとの説からと言われている。 「三光尉」に似ているが皺が少ない。
三光尉  さんこうじょう        〔 八島  実盛  〕

名称 は三光坊が創作したところからきている。漁夫 漁師などの老翁としてもちいられる。
                                                                                                                        
笑尉  わらいじょう        〔 融 〕

高貴な人の化身で小牛尉にくらべ品位は少し落ちるが笑みを浮かべた口元に人間の身近さを感じられる。
阿瘤尉  あこぶじょう        〔 天 鼓  昭君 〕

阿瘤とわ額に瘤状の隆起があるところからきた名称。
大飛出  おおとびで        〔 加茂  嵐山 〕

名前は目が飛び出ているのでとか、又 仏教の天部像の飛天からとも云われている。口元は石榴(ざくろ)をくわっと 吐いた様な表情をしている。 豪快な神威や陽性の神の役に用いる。
猿飛出

上書と同じ飛出型、 舌の両サイドがくり抜かれているのが他に例を見ない。
黒 髭  くろひげ        〔竹生島〕

水底に君臨する神 龍神として用ふ。
大べし見  おおべしみ      〔 鞍馬天狗 〕

べし見は口をしっかりと結ぶ「へシム」と云う言葉からきている。 恐ろしい中に何所か滑稽なところがある。 天狗として使用されている。
長霊べし見  ちょうれいべしみ        〔 熊坂  車僧 〕

名前の由来は創作者の長霊からきている左目の瞳が上を見ており右の頬は少し張っている。 人間に近いどこかユーモラスな表情をしている。 平安時代の大盗賊 熊坂長範の役に用いる。
猿べし見  さるべしみ        〔 鵺 〕

鵺の亡霊。謡曲「鵺」ではその妖怪は頭は猿 尾は蛇 手足は虎 鳴き声は鵺に似るの描写から 作りだされた猿に似たべし見系。
大悪尉  おおあくじょう        〔 玉の井  長良 〕

悪とは、 強い 猛々しい 偉い という意味。 「古事記」の神代の説話「海幸彦、山幸彦」を題材に観世小次郎が作曲した  能 「玉井」の龍神の老竜王に用う。
鼻瘤悪尉  はなこぶあくじょう        〔 白髭  東方朔  〕

鼻が瘤状に隆起しているのでこの名がついた。  額の静脈、剛毛の髭、目のするどさ、等に超人間の威厳 威力に溢れている。  神や仙人などの威厳にみちた役に用いる。
重荷悪尉  おもにあくじょう        〔 恋重荷 〕

女帝との恋を嘲笑され、復讐を迫る老人の相猊。  左右の目の瞳孔が天地俯仰して放心状態を思わせ、狭い額には苦悩の皺が多く刻まれている。
 
牙べし見悪尉  きばべしみあくじょう        〔 氷室 〕

べし見と悪尉の両方の性格をもち、その上二本の牙があるところからこの名がついた。  頭は丸く眼窩を深くとった眼、瞳をやや上で中央に寄せて凝らした力に満ちている。
 
天 神  てんじん        〔 金札 輪蔵 〕

菅原道真公の怒りの形相。 カッと見開いた目には金具はめ、眉の両端は大きくつり上がり、口は怒号を発するごとく  上下に歯列を見せ左右に開かれている。
  しかみ        〔 紅葉狩  大江山 〕***

顔の筋肉をしかめる表情(シカメッツラ)から名づけられた。  昔は獅噛とも書いた様にいかにも上下の歯で物を噛んでいる状態を思わせている。  主に鬼神として使用されている。
     
野 干  やかん        〔殺生石〕

妖狐の精 鬼畜の中でもきわめて特異な面。
大獅子  おおじし        〔 石橋(しゃっきょう) 〕

恐ろしい中にもどこか慈愛が漂っていて、親獅子の貫禄を示す悠然たる百獣の王格を表現。  眉も眼も小獅子の様に上らず、丸みをあびて目尻が下っている。
小獅子  こじし        〔 石橋  龍虎 〕

まさに獲物を狙わんとする若獅子の表情。獅子口にくらべ目尻は吊り上り、上目使い、力を外に放射する強い造型。
夜叉  やしゃ

鬼の面として使用。
  いかづち        〔 加茂  雷電 〕

五穀豊穰を守る雨の支配者。  顰面の眼と獅子面の口を合わせた様な形で、又髭は稲妻を思わせて雷神の表情をだしている。
十六中将  じゅうろくちゅうじょう        〔 経正 〕

一の谷の合戦で十六才の若さで戦場の花と散った経正の可憐な武将を強調するに ふさわしい面。
喝 食  かっしき        〔 居士  花月 〕

喝食とは禅宗の小僧で、まだ前髪を残す半俗半僧の姿。  銀杏形の前髪が喝食の特徴である。
                           
童 子  どうじ        〔 田村  大江山 〕

少年の姿を借りた妖精
慈 童  じどう        〔 菊慈童  枕慈童 〕

永遠の若さを保つ神秘性を秘めち美小年。  妖精的な要素をたたえ、頬に淡く紅をさしエクボがさらに可憐さを表現している。
猩 々  しょうじょう        〔 猩々 〕

酒に酔って舞う妖精。  猩々は中国の想像上の怪獣。酒に酔った赤ら顔は能面の中では異色といえる。
今 若  いまわか        〔 敦盛    経政 〕

平家公達の若武者の面
蝉 丸  せみまる        〔 蝉丸 〕

延喜帝の第四皇子。盲目のため逢坂山に捨てられる。弱法師によく似ているが、頭部に冠形をしている事で高貴の身分の相猊を表現している。***
平 太  へいた        〔 田村   屋島 〕

武勇の聞こえ高い坂東武者 荏柄の平太胤長の顔を写したと言われている。  眉毛や口髭の末が太く、上をむいて跳ねられている。頬骨や頬の肉のこけ具合も精悍な  武将を思わせる。 男の顔容の標準を示している。
中 将  ちゅじょう        〔 清経   忠度 〕

目は大きめで眉根の襞にいささか苦しみをたたえている. 五位の中将在原の業平を相定し面。  平家の公達などの貴公子の役柄等に用いる。
邯鄲男  かんたんおとこ        〔 邯鄲男  女郎花 〕

中国の話で邯鄲の夢枕(人生の栄枯盛衰のはかないたとえ)から付けられた名前。  中国の青年盧生の、人生の意義を模索する、憂愁の青年の顔だち.[邯鄲は古代中国 趙の都]
俊 寛  しゅんかん        〔 俊寛 〕

 法勝寺執行俊寛僧都 …… 落ち込んだ眼をなた豆状に下げ 痩せこけた頬 下歯のない口 等に南海の孤島に取残された流刑僧の悲痛感が漂っている。
影 清  かげきよ        〔 影清 〕

平家の武将 悪七平衛影清が日何に流がされ盲目の乞食同然の生涯をおくったその  晩年の姿を表わす。 元武将の不屈の意地と暗黒の現実を、皺 髭 頬のこけ等に表わしてる。
小 面  こおもて        〔 羽衣  松風 〕

小は 若い 美しい 可憐 と言う意味。小面は女面の原点。  目元に恥じらいを感じ、四角に切られた瞳、口元は少し受け口で両端をあげ、ぽってり  とした頬等に処女性の美と、可愛いさを見事に表現している。
若 女  わかおんな        〔 花筐 浮舟 草子洗小町 〕***

小面より少し年上で、美くしさの中に知的なつめたさを秘めている。額の両角の毛書きが交差しているのが特長である。
十寸髪  ますかみ        〔 三輪   玉鬘 〕***

神がかりな狂女に使用。眉は書かずに眉間に皺をよせ、額に窪みだけの面もある。
孫次郎  まごじろう        〔 夕顔  西王 〕***

名稱は、金剛流の金剛右京大夫(後に孫次郎)が亡き妻をしのんでその面影を写したとの伝承からきている。 小面より年かさを表わすため、頬のふくらみや顎の丸みを減じている。毛書きは、中央から二本ではじまり途中でさらに二本加わっている。
増 女  ぞうおんな        〔 龍田  三輪 〕

増阿弥が創作したのでこの名で呼ぶ。  女神や天女、高貴な女性に用ふ。 毛書きが二本、三本、三本、と三段に引かれている。
節木増  ふしぎぞう        〔 東北 井筒 〕

増女の面の桧の節がたまたま彩色の上に顕われたことからこの名がついた。
逆 髪  さかがみ        〔 蝉丸 〕

延喜帝の第三王女 髪が逆に生えていたのでこの様に呼ばれていた。第四王子蝉丸の姉宮。
深 井  ふかい        〔 墨田川 百万 三井寺 〕

中年女性の深い情愛、人生の経験と心情の深さを表わしている。若い女面の瞳は四角に切られているのに対し、丸形になっている。 眼窩の窪み目尻の下り、唇の薄さ、頬のこけた大きな溝、等に幽玄の風情を漂わしている。
増 髪  ますかみ        〔 巻絹 〕

語言は神性を「増」す、髪は「神」の転用といわれている。  眉間に二筋の皺とその上にある二つのくぼみ、毛の乱れ等に神性と狂気が加味されている。
  うば 〔 高砂  桧垣 〕

額に目立たない皺を刻み、眼窩大きく深くとり、細い鼻筋、目下の頬の皮膚の弛み、とがった顎等に、 深い尊き人生の歩みを思わせる気品のある穏やかな表情の面。
老女小町  ろうじょこまち        〔 卒塔婆小町 〕

小野小町の老年の面。  極端に頬がこけて窪み、頬骨が突き出している。 若かった頃の、栄華への幻想をしつつ老年の憔悴、かなしみを、表現した個性の強い面
瑞葉女  みずはめ        〔 百万 〕

深井と老女の中間(初老)の面
一角仙人  いっかくせんにん        〔 一角仙人 〕

インドの仙人で鹿の胎内から生まれたと言う伝説から角が生えている。  龍神を岩屋に封じ込めてしまう神通力の持ち主。
  たか        〔 高砂   養老 〕

三日月をさらに強調した神霊の面、目が鷹に似ている。  他の怪士系と趣がことなり舌と耳がある。
神 体   しんたい       〔 養老 〕

無表情の中にも冷静さと神としての威厳を秘めている。
三日月  みかづき        〔 松虫   舟弁慶 〕

神性に近く、しかも非現実的な霊の男、福来作と伝えられるものに三日月の刻印があるので  この名前で呼ばれている。
二十余  はたちあまり        〔 藤戸 〕

謡曲、藤戸の一節「二十余りの年波・・・」から名付けられた。 恨みの執念をはらすためにこの世に現れた若者のあわれに痩せおとろいた相猊。
河  津  かわず        〔 善知鳥(うとう)   阿漕 〕

疑獄に落ちた亡霊の凄惨な面。
泥 眼  でいがん        〔 葵上  海士 〕

六条の御息所の生霊。白眼の部分に、金泥が施されているのでこの名がある。 怨霊の不気味さの中に高貴な女性の燃える思いに耐え兼ねた風情を表わしている。
橋 姫  はしひめ      〔 鉄輪 〕

復讐にもえる怨霊の女面。 金を嵌めた血走った眼、乱れた頭毛、怒りみちた口元等に、 醜悪さの一面を強調した中にも女らしい又一つの凄艶の極みを見る。
生 成  なまなり        〔 鉄輪 〕

生成りは般若になりかかった若い面こと。 額から二本短く角が生え始めている。 顔の表情も、般若にくらべずっと控えめである。
般 若  はんにゃ        〔 道成寺  葵上 〕

般若坊の創作による処から付けられた名前。(般若とは仏教用語で智恵を意味する。) 女性の憤怒、怨霊、嫉妬、怨嵯、復讐それらの感情の極限をみごと一つに集約されている。
  じゃ        〔 葵上  道成寺 〕

女性の怨念の極限。般若の悲しさは失われ、嫉妬が更に増した狂暴な相になっている。 (尚 生成りに対し、般若を中成り、蛇を本成りとも呼ぶ)
山 姥  やまんば        〔 山姥 〕

謡曲「山姥」専用面。山中に棲む年たけた鬼女 その表情が鬼面を髣髴させる不気味さ  がただよっている。
釈  迦  しゃか        〔 大会 〕

愛宕山の天狗が、比叡山の僧正に命を救われたお礼に、釈迦が霊鷲山での説法の様子を真似る。 天狗の面(子べし見)の上からつけるので大きな面になっている。
牙不動  きばふどう        〔 調伏曽我 〕

密教の主尊とされる不動明王。髪は茶で先端は渦を巻き、地肌の青は、他の能面ではない。

狂言面解説

名称        〔 使用曲目 〕

  さる        〔  靭猿 〕

太郎冠者と遊山に出た大名は、猿引に出会い靭用(矢の筒)に猿の皮を よこせと弓で脅す。大名は鳴き悲しむ猿引と猿を見て助けることにする 喜んだ猿引きはお礼に猿を舞わせると、大名はついつられて猿の真似をして一緒に踊りを楽しむ。
  おと        〔  金津地蔵(かなつじぞう) 〕

金津の者が持仏堂を建立し、地蔵を求めて都に上る。地蔵は心に直にない者は騙してやろうと、子供(乙)を地蔵に仕立てる。地蔵は万頭くれ、酒をくれと言い出す・・・
  きつね      〔  釣狐 〕

一族を捕らえられた古狐が、猟師の叔父に化けて意見に行く。猟師は改心し狐は喜んで帰るが、不審を抱いた猟師の仕掛けた罠にかかり、 必死にはずして逃げて行く・・・
白蔵主  はくぞうす      〔  釣狐 〕

釣狐の中に登場する狐が化けた猟師の叔父。
  おに      〔  神鳴 〕

雷(鬼)が落ちて腰を痛め医師に鍼で治療してもらう。 すっかり元気になった鬼が豊年を約束して賑やかに天上する。
武悪  ぶあく      〔  浅比奈 〕

能面の大べし見をくずしたものと言われている。 六道の辻にやってきた浅比奈三郎義秀を地獄へ落とそうとしている閻魔王(武悪)であるが浅比奈は一向に動じない。 最後は閻魔を投げ飛ばし彼に七つ道具を持たせて浄土への道を急ぐ。
  えびす      〔  夷毘沙門 〕

毘沙門  びしゃもん      〔  夷毘沙門 〕

娘の婿を求める有徳人が西の宮の夷と鞍馬の毘沙門に祈る。するとこの二神が婿になろうとやってくる。二人は自慢をし最後には 互いに争って宝を与える。神様が出現して宝を与えるめでたい狂言。
賢徳  けんとく      〔  蟹山伏 〕

修行を終えた山伏が国へ帰る途中、蟹の精に出会う。金剛杖を振り上げても祈っても効果なく 、ついに蟹に突き倒されてしまう。自分を生き不動と思い上がっていた山伏が 敗れてしまうところに批判を含んだ面白味がある。
大黒  だいこく      〔  大黒連歌 〕

江州阪本の男と友人が叡山の酒大黒天に年越し参詣をし連歌を奉納して酒宴になる やがて大黒天出現・・・日頃の信心が嬉しいと連歌の面白さを褒め打ち出の小鎚や宝の袋を与えて共に舞い遊ぶ。
  たぬき      〔  狸腹鼓 〕

狸狩りの猟師の所に尼に化けた狸が現れ殺生をやめるように意見するが見破られ猟師に腹鼓をうったらゆるすと 言われ猟師と共に興ずる。
天狗  てんぐ      〔  彦市ばなし 〕

嘘の名人彦市は釣り竿を遠めがねと偽って子天狗から隠れ蓑を騙し取る。 そこへきかかった殿様に河童を釣ると天狗の面を用意させる・・・ 彦市と子天狗の騙し合いに殿様が加わってのてんやわんやの大騒動。

舞楽面解説

        

蘭陵王  らんりょうおう        

中国北斎(西暦549〜577)の王。長恭は美顔が災いして兵士の士気が 上がらないため仮面をつけて出陣、その甲斐あって大勝利を収めた。 日本では古くから宮中での天覧相撲の時に左方が勝った時にこれをつけて舞う。 因みに右方は納曽利(なそり)面。


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